日常生活では言葉にする機会を逃してしまうような夢や愚痴を吐き出すレクリエーション。 時に真面目に、時に愉快に、真摯に向き合います。どなたさまもふらりとお越しくださいませ。
開催レポート:合言葉は「サインはエム!」
2025.9.27開催
秋晴れの9月。月に一度の吐き出し喫茶です。
今回の、オススメサイドメニューは、きたまりさんの「ボディランゲージテイラー」。
きたまりさんといえば、振付家として、札幌でもさまざまな舞台に携わってらっしゃいます。私も直接お会いするのは初めてで、どんなプログラムが飛び出すのかわくわくどきどき。
開店前のミーティングの際も、店員の藤原さんが
「今日は、フロアが汗まみれになるくらい踊りまくるんでしょ?」
と、謎の意気込みを見せていました(笑)。
そのミーティングで、もうひとつ確認されたことがありました。
それは、前回の振り返りの時にも浮かび上がった
「店員の心を守る」という課題。
もちろん、吐き出し喫茶はいらっしゃるお客さまが、
安心安全に、
ネガティブ、ポジティブ関わらず、
心のままに言いたいことや夢や希望を吐き出せる場所です。
しかし、誰かの無理の上に築かれたものは長続きはしないもの。
お客さまばかりではなく
店員の心の安全性も守られてこその吐き出し喫茶。
そこで、営業時間中であってもうまく立ち回れなかったり
気持ちを保てなくなったりしたときには
ヘルプを出していきましょうということに。
「じゃあ、そういう時の合言葉は『サインはエム!』でね」
と決まったところで、開店となりました。

本日の店員は、由浦さん、幸絵さん、藤原さんに加え、
これまでお客さまとして来ていたハリーさんが店員デビュー。
ゲストのきたまりさんと共にお客さまを迎えました。
おしゃべりや藤原さんの施術の中、
少しずつお客さまが集まり、
1回目のきたまりさんのワークショップ。
実は、開店前の軽い打ち合わせの際、
きたまりさんに迫る店員たち。
「今日は踊りまくるんですよね!」
「えー。聞いてないー」と笑っていたきたまりさん。
1回目のワークショップはゆるりと始まりました。
残念ながら(笑)、激しいダンスパフォーマンスではありません。
ストレッチのような、表現の一歩手前のような動き。
でも、やはり、ダンスを生業とする人の動きに合わせると、普段とは違う動きな気がします。
自分の体はどこまで伸ばせて、どこまで曲がるのか。
関節が回るのはどこまでで、激しく動きたいのか、静かに揺れたいのか。
一つひとつ、確かめるように動きを決める。

体の声に逆らうことなく、従って動く。
ともすれば、「自分」という意識ばかりが先走って、ついつい「体」のことを無視してしまうことは多いもの。その結果、「体」が悲鳴をあげたときには大変なことに……なんてことはざらです。
ダンス未満のように見えるこのワークショップは、「体の声」をていねいに拾い上げることを思い出させてくれるものでした。

が、藤原さんには物足りないかも……というところで、引き続き、「激しく踊りまくるための」藤原さんによる整体ワークショップが始まりました。
体の中でもヒザにかかる負担は非常に大きく、
踊るための要になるはずということで、今日のテーマは「ヒザ」。
まずは、今の状態を知るために、屈伸運動をしてヒザの動きを確認。
その後、なんと、自分でヒザのお皿を動かしていきます。

ヒザのお皿って動くんです!
(知っていた方、すみません)
藤原さんに補助してもらうと、固定したヒザの皮膚の下を上下左右にクヌクヌと動くヒザのお皿。
思いもかけない動きに驚愕の声が上がります。
十分にセルフマッサージをして、再びした屈伸のスムーズさに再び驚愕の声が上がります。

ここでも、普段の生活の中で、自分自身のことでさえ、気付かなかったり、粗雑に扱ったりしていることの多さに申し訳なくなります。ごめんね、自分。
それぞれのおしゃべり、サイコロトークを経て、2回目のきたまりさんワークショップ。
ちょうどいらした鍵盤ハーモニカ吹きのお客さまの即興に合わせて、体を動かすことに。
きたまりさんの
「私、シャインマスカットが好きなんですよ」
のひと言から、シャインマスカットダンスが始まりました。
形や大きさや香り、味をイメージして口に運ぶダンスは楽しい、楽しい。

お客さまのリクエストで、おかわりのカフェラテダンスも。
その昔、体育の授業の創作ダンスは恥ずかしく苦痛でした。
自分の容姿はダンス向きではないと思っていたし。そんな姿を人前にさらすなんて本当にいやだった。「なんでこんなことやらされるんだ?!」と。
でも、本当はダンスって楽しいのですね。
他の人の動きはかわいいし、自分で動くのも楽しい。
それは、この場所ではどんな動きをしても、誰も揶揄したり嘲笑したりすることがないと信じられるから。
作品としてのダンスはこれまでも見てきましたが、
一緒に踊る、動くということが、こんなに豊かなものだとは思いませんでした。
心のお腹がいっぱいになったような。

その一方で、実は、「サインはエム」が発動し、
隠れ部屋が機能していました。
心理的安全性を保つためにと、どんなに注意深くしていても
わずかなズレに、辛さがあふれることもあるのです。
そうなったときには、
みんなのいる場を離れて、少し違うペースで話をする。クールダウンする。
そうして、平らかな心を取り戻すことは重要なこと。
その流れで、私も吐き出しを受け止める側を初体験しました。
勝手がわからず、
「私は何を求められているのだろうか」
と、思いつつも、話を聞いて、どうしたいのか、どうするのが良いのかを
一緒に探るような時間。
人の気持ちや思いを受け止めるのは、正直なところ、大変なことでした。
でも、相手がほーっと息をついて、笑顔になるのを見て、
こちらもほーっと息を吐いた瞬間、
「あれ? これが『吐き出し』ってこと?」
結論や結果出なくても
ただ共有して、ひと息つく。
それも「吐き出し」のひとつのカタチなのだなと思いました。

この間、小部屋の外側では、何が起こっていたのかはわかりません。
何やら、にぎやかな音が聞こえていたので
フロアが汗でまみれるくらい踊っていたのかもしれませんね(笑)。
文章:わたなべひろみ
札幌生まれ・札幌在住。ライター・まゆん先生のアイヌ語講座主宰。建築設計デザイン、広告営業などを経てライターに。働き方や教育、一次産業など多岐に渡る分野のインタビュー・取材記事を執筆。そのかたわら、福島発祥の大風呂敷プロジェクトなどアートプロジェクトのサポートやアイヌ語教室の主催などの活動をしている。
