HAKI-DASHI

日常生活では言葉にする機会を逃してしまうような夢や愚痴を吐き出すレクリエーション。 時に真面目に、時に愉快に、真摯に向き合います。どなたさまもふらりとお越しくださいませ。

開催レポート:爆笑サイコロトークとおりんの澄んだ音に清められた昼下がり

2025.8.23開催

「こんにちは」

「いらっしゃいませー」

扉を開けると、開店を待ちわびたように、1人、2人とお客さまが訪れます。

「吐き出し喫茶」開店しました。

……て、「吐き出し喫茶」って何? 

ひとまず、メニューを見てみましょう。

ドリンクはわかるとして、メインは「吐き出し」。

アペタイザーには「自分に送るレター」や「セルフおみくじ」。

サイドには「バーチャル奉納体験」!?

「吐き出し」という言葉。

どちらかというと、ネガティブに感じてしまいます。

まずは、体験してみないことには、わかりません。

ほどなく、店内はにぎやかになってきました。

友人で連れ立ってという人はほぼいません。ほとんどが、1人でふらりとやってきます。ご自分の好きな場所へどうぞとご案内。4人掛けテーブル、カウンター、なんなら奥の方で1人になっても良いですよ。

はじめましての人たちが同じテーブルについて、本日のゲストである現代美術家の内田聖良さんを交えて話し始めています。

これまで何度も訪れているらしいお客さまは、勝手知ったる様子で、テーブルの上にたくさんのお土産を取り出します。きゅうりの漬物、マックのナゲット、チーズナンまで! 店員の愛さんがキッチンに運んで、みんなにシェアしました。

そして、その人は、早速、店員の幸絵さんご指名で「吐き出し」を始めました。

気付くと、通路の真ん中にはどーんと施術用ベッドが設えられ、店員の藤原さんによる整体の提供が始まっています。

お客さまに丁寧に声をかけながら行われる施術は本格的なもので、「本当に無料でいいのですか?」と思ってしまいます。

テーブルで、カウンターでと、話の輪は一つ、二つ、三つと増え、そう広くない空間は話し声が渦を巻くよう。

それぞれで盛り上がってるんだなあと思っていたら、幸絵さんがすっと立ち上がり、「はい、シアターゲーム始めまーす!」。

え、ここで話を切っちゃうの? と驚く間もなく、参加したい人が立ち上がって輪になって。

もちろん、参加したくない人はしなくてもよいのです。

参加した人は、少しずつ複雑になる受け答えに戸惑ったり笑ったりとにぎやかです。

シアターゲームが終わったタイミングで、本日のゲストメニュー、内田 聖良さんによる「バーチャル奉納体験」が始まりました。

奉納するのは思い出の品。まずは、その思い出の品にまつわることを書き出していきます。どのようなもので、どんな思い入れがあるのか。内田さんが細やかに質問をして、言葉を引き出します。対話しながら書き進めることで、愛しい気持ちや執着やこだわりがするすると出てくる様子が端で見ていても心地よいのです。あー、これも「吐き出し」なんだ。

テキストができると、いよいよ、思い出の品を3Dスキャンします。

このスキャンした思い出の品とテキストを仮想空間上の「バーチャル供養堂」に奉納するのが、「バーチャル奉納体験」なのです。「リーン、リーン、リーン」とおりんを鳴らして、

ご本人の手で3D化していきます。

テーブルの周りを1周してデータ化された腕時計を見て、一同「おおー!」。

物理的な形のない「想い」を文字という形で頭の外の現実に出し、形ある腕時計を3Dデータという手では触れられないものにして転送する。その両方をバーチャル供養堂に奉納する、という、出たり入ったり、行ったり来たりな体験。思い出は、よりくっきりとした輪郭を持って浮き彫りになり、供養した本人はどなたもすっきりとした顔をしています。

さらに、供養したい人を募ると、

「つらかった自分の頭を供養したい」

泣きながら「頭の中のつらいところを」と訴えるその人。

「そうだね、そうだね。じゃあ、いったん、お清めしようか、心しずめて」と、愛さんがその人を椅子に座らせます。

それを受けて、内田さんがおりんを鳴らします。

「リーン、リーン」

「深呼吸しましょう、深呼吸」と、愛さん。

「リーン、リーン、リーン」

おりんを9回鳴らす間に、その人はすーっと落ち着きました。

暑かったその日の、周囲の空気も涼しく落ち着いたように感じたのは気のせいでしょうか。

そこから、その人は、何事もなかったかのように別の話を始めました。

この日、新たに加わったというサイドメニューがサイコロトークでした。

昔、某トーク番組で流行ったアレです。

幸絵さん自作のカラフルなサイコロを順番に振って、出た数字に割り当てられたお題について話します。芸能人のエピソードトークのように人前で話し慣れていなくても、話はどんどん転がるもので(サイコロだけに)。ところが、なぜか5ばかりが出て、なかなか2、4が出ず、まさかのイカサマサイコロ疑惑が勃発(笑)。その後、違う目が順調に出始めましたが。

「宝くじが当たったらどうする?」というお題では、「地中海帆船クルーズに全部使う! レイバンのサングラスとかかけちゃって」という思いっきり使っちゃうぜ派から「アーティストの育成ができるようなギャラリーをつくりたい」という社会貢献派、「まず貯金して、あとは仕事の資金にする」という堅実派まで見事に分かれていました。

サイコロトークの後は、またしばらく、テーブルごとにおしゃべりの時間。

セルフおみくじを黙々と書く人も。

そして、空気が偏って固まりそうに見えたタイミングで、シアターゲームや整体ワークショップなどが行われました。

2回目のシアターゲームには私も参加しました。

簡単なゲームのようなやり取りなのに、つい「ちゃんとやらなきゃ」と必死になっている自分に気付き、普段、どれだけ「正しくやろう、間違わないようにしよう」と思いながら生きているかを痛感しました。でも、だんだん、困ることも楽しくなってきて、「えー、どうしよう」と立ち尽くすことさえ気持ちよくなってきたのでした。

13時から17時までの4時間。

最初から最後まで、あるいは入れ替わりながら訪れるお客さまで店内は常に盛況でした。

この結構な長時間、どうやって過ごすのだろうと思っていましたが、過ぎてしまうとあっという間。

「吐き出し」をメインに据えながらも、個と全体のコミュニケーションをどう取るかに目を配り、そのタイミングを逃さず切り替えているからこそでしょう。

どうやら、「吐き出し」は決してネガティブな意味合いではなく、何やら明るい方向へ向かうための手順のひとつのようです。しばらく観察して「吐き出し喫茶」の要を探っていきたいと思います。

文章:わたなべひろみ

札幌生まれ・札幌在住。ライター・まゆん先生のアイヌ語講座主宰。建築設計デザイン、広告営業などを経てライターに。働き方や教育、一次産業など多岐に渡る分野のインタビュー・取材記事を執筆。そのかたわら、福島発祥の大風呂敷プロジェクトなどアートプロジェクトのサポートやアイヌ語教室の主催などの活動をしている。